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日本の株価は未だ高い(3

200354

宇佐美 保

 私は、政府が株価対策を講じるのは大反対です。

 

54日付けの日経新聞には、次のような記事があります。

……先週は企業業績への不透明感が強まったことなどを背景に、日経平均は週初に7600円割れ寸前まで急落した。ただ、4月30日に日銀が追加金融緩和を発表したあたりから、市場では株価対策など政策への期待感が広がり、週末にかけて日経平均は3日続伸した。好業績にもかかわらず売り込まれていた銘柄が割安感から見直されて買われる動きも広がった。……

何かおかしくはありませんか?

 

 この前段階には、4月15日付けの朝日新聞に次のような記事があります。

緊急の株価対策、経済3団体発表 株価低迷を受け

 日本経団連、日本商工会議所、経済同友会の経済3団体は14日、個人が03年度に取得した株式の配当、譲渡益の非課税、株式の相続税の評価額を2分の1にする、などの株価対策の緊急提言を発表、財務省などに伝えた。奥田碩・日本経団連会長は同日の記者会見で「(株価対策で)個人が株式市場に参入してくれれば、(株価を下げている)売り方にショックを与えられる」と述べた。

奥田会長は最近の株価低迷の要因について、政治不信、失業の不安に加え、老後の社会保障への不安があると指摘したうえで、「1400兆円の個人金融資産をいかに動かすかが日本経済の一番の問題だ」と述べた。

 

 更には、同紙の417日付けには

……経済同友会代表幹事を退任する小林陽太郎・富士ゼロックス会長が16日、最後の記者会見をした。

 ……03年度の株式譲渡益の非課税などを求める株式譲渡益の非課税などを求める経済3団体の緊急株価対策の提言を政府が退けたことに、小林氏は「政府はもっと危機感を持つべきだ。小泉総理は広い意味での市場との対話をもっとおこなって欲しい」と注文をつけた。

 

 更におかしいことは、先週のテレビ朝日の番組「サンデープロジェクト」にて、司会の田原氏は、「優良会社と言われていた武田薬品、信越化学、トヨタ、松下電器までが株価を下げてしまっている」と憤慨し、ゲストの亀井氏(自民党前政調会長)は「小泉首相は、悪い企業は潰すと言いながら、優良企業まで潰してしまう。これでは枯葉作戦だ!」喚いていました。

 

 おかしくはありませんか!?

これらの優良企業の今日時点での、株価、PER(株価収益率)、配当利回りを調べてみますと次表のようになります。

 

株価(円)

PER(株価収益率)

配当利回り(%)

武田薬品

4320

16.30

1.39

信越化学

3590

22.14

0.33

トヨタ

2680

15.71

1.04

松下電器

985

/

1.27

 

 これらの企業は、確かに、PERの面からは、(松下電器を除いて)国際的な株価評価基準である15倍以下近くではあって優良企業です。

ところが、なんと1%そこそこなのです。

こんな低利回りの株を国民は購入しますか?

 

この優良企業のトヨタはその収益金を、配当に回さずに、UFJ銀行やトーメン等の不良企業のへの援助に向けてしまいます。

2002年12月28日付けの朝日新聞には次のような記事があります。

 ……東洋棉花(現卜一メン)を旗揚げした児玉一造の弟利三郎は、トヨタのルーツである自動織機の発明王、豊田佐吉の女婿で、37年設立のトヨタ自動車工業(現トヨタ)の初代社長という縁だ。東海銀行には地元の取引先企業が昔から世話になっている。奥田会長が「経済合理性は大事だが義理も大事」と発言したゆえんだ。

 半面、とトヨタ上層部から「駆け込み寺にされては困る」という悲鳴も聞かれた.トーメン支援と並行して、UFJの増資引き受け問題も浮上していたからだ。手もと資金2兆円、03年3月期の連結経常利益は1兆5千債円に達する勢いのトヨタ。金融や産業の再生問題では、日本経団連会長でもある奥田会長が「財界総理」として辛口の発言を続ける。「企業再生に一肌脱いでほしい」との期待感は高まっている。……

 

 如何にトヨタの営業成績が良くても、こんな株主軽視の会社の株を誰が買うのですか?

株式市場へ流れるお金のうち、個人投資家のから流れるお金が8%しかないのは当然です。

何故収益が出たら、配当金に回さないのですか!?

奥田氏は1400兆円の個人金融資産をいかに動かすかが日本経済の一番の問題だ」と述べているなら、個人金融資産の有効活用の為の、有効手段の一つは、株の利回りをアップさせて、個人投資家が喜んで株を買う様にすることです。

少なくとも、優良企業(PERが15倍以下)は、配当利回りを4〜5%とする努力をすべきです。

(そして、奥田氏は率先してトヨタの配当利回りを4〜5%にもって行くべきです)

それにしても、今日のサンデープロジェクトで、元大蔵官僚の榊原氏は“日本の大部分の会社の株価収益率は100程度なのだから、それらの会社は収益率をアップするように努力すべきだ”と語っていましたが、こんなにも収益率が悪くては、東証一部の平均利回りが1.36%もあるのが、かえって、不思議なくらいです。

こんな状態では、日本の株価は今の1/2以下まで下がって当然でしょう。

(尚、拙文「日本の株価は未だ高い(2」にて、東証1部で高配当ベスト50の会社の利回りとPERを調べましたが、利回りは1.6〜3%弱で、PERは15倍前後でした)

 

そして、現状のような低配当率(株主無視)の日本株を売り買いするのは、機関投資家(投機家)達だけではありませんか!?

彼等は、短期間に株を売り買いし利益を得るのですから、根本的に利回り等を無視していても構わないのです。

彼等が利益を得るには、株価が頻繁に上がったり下がったりしていれば良いのです。

(もちろん、右肩上がりがベストではありますが)

従って、彼等が一番困るのは、株価が一定値に停滞してしまうことです。

(株価一定では、幾ら売り買いしても利益は出ません。)

ですから、彼等は、なんだかんだと口実を付けて、株価に対して揺さぶりをかけてくる訳です。

 

 従って、次のような日経新聞の記事にも驚いてはいけないのです。

日経平均、バブル後安値を更新――企業業績への懸念強まる

25日の東京株式市場では日経平均株価が反落し、バブル経済崩壊後の安値を更新した。終値は前日比155円7銭安の7699円50銭と1982年11月以来の水準まで下げた。今年1―3月期の営業損益が大幅な赤字になったと発表した前日のソニー決算を受け、企業業績の先行きに対する懸念が強まった。北朝鮮が核兵器保有を認めたとの報道も買い手控えにつながった。

 この日は朝から国内外の機関投資家からの売りがソニーに殺到し、株価は値幅制限いっぱいの500円安まで下げた。他の主力株にも売りが波及。特にハイテクや自動車といった国際優良株の下げが目立ち、大手銀行株も軒並み安くなった。 ……

 

 そして、次なる428日付の日経新聞の記事などが出てくるのです。

日経平均先物、午後は安値圏で始まる 「反発期待できず」の声

……相場の下落基調が鮮明となる中、経済閣僚からは相場下落の原因を海外に求めるかのような発言が出ている。市場では、「政府は株価下落に対する危機感が乏しく、相場の本格的な反発は期待しづらい」(準大手証券)として売りを先行させる自己売買担当者が増えている。北朝鮮を巡る海外情勢の緊迫化も買いを控える材料になっている。……

 

 どだい政府が株価対策や経済対策をしたところで、何ら効果のないことは機関投資家自身が一番よく知っている筈です。

ですから、冒頭の日経新聞抜き書きの「市場では株価対策など政策への期待感が広がり、週末にかけて日経平均は3日続伸した」と言うのも、機関投資家達が、これから日本経済が上向きになって行くと判断した結果ではないのです。

ただこの情報(糞情報でも何でも)を活用して、株高へ誘導して彼等は利ざやを稼ごうとしただけです。

そして、彼等は次のような新聞記事を歓迎するのです。[毎日新聞4月28日]

「底なし沼」打つ手なく 7000円割れも視野 

28日の東京株式市場で、日経平均株価は2営業日連続で、バブル経済崩壊後の最安値を更新した。……この日の市場では、ソニーが、業績悪化見通しを受けて2営業日連続のストップ安になったほか……今の日本の官庁には総合調整機能がなくなったのではないか」。普段は慎重な発言をする東京証券取引所の土田正顕社長は28日、取引終了直後の記者会見で力説した……

 大和総研の三宅一弘・チーフストラテジストは「日経平均株価は7000円が一応の底値のめどになるが、割れないとは言い切れない。何より政府に危機感がないことが問題だ」と指摘、政策無策が続けば、7000円割れの可能性も否定できないと懸念している。

 政府内でも「歯止めのない株安は、金融システムを瓦解させかねない」との危機感も出始め、来月8日の経済財政諮問会議(議長・小泉純一郎首相)で株価対策を協議する方針。郵便貯金や簡易保険、年金など公的資金による株の買い支えなどが、緊急避難策として取りざたされているが、「改革路線を否定する人為的な株価維持策」との批判が出るのは必至。いずれにしても、政策的対応は、小泉首相が外遊から帰国する連休明けまで持ち越される見通しだ。

 このように「今の日本の官庁には総合調整機能がなくなったのではないか」とか「何より政府に危機感がないことが問題だ」とかの外圧から、「郵便貯金や簡易保険、年金など公的資金による株の買い支えなどが、緊急避難策として取りざたされている」事によって、いったん下がった株価が上がることによって投機家集団はぼろ儲けをするのですから。

そして、私達の財産である「郵便貯金や簡易保険、年金など」が勝手に投機家達の餌として、政治家達によって給されてしまうのです。

(政治家達も彼等に連んでいるのかもしれません)

私達の貴重なお金が株市場に投入されても、株価の上がるのは、その時だけの一時的な問題です。

(今の株価の決定権を握っている(株式市場を牛耳っている)のは機関投資家達です。

それなのに、先に掲げた小林陽太郎氏の小泉総理は広い意味での市場との対話をもっとおこなって欲しい」を真に受けて、機関投資家達のご機嫌取り的な政策を打ち出していて良いのでしょうか?)

 

今朝のサンデープロジェクトで、司会の田原氏の“日本の適正株価はバブル開始前の株価”的な発言に異を唱える出席者はいませんでした。

おかしいではありませんか!?

バブル前から、日本では「地価、株価、物価」が高いことが問題になっていたではありませんか!?

これらの、バブル前の日本のおかしな現象が、バブル崩壊を機に是正される方向に動き出しているのです。

この動きが銀行企業にとって不都合だというのなら、銀行企業が今以てバブル前の悪習にドブ浸かりになっていると言うことです。

即ち、その経営手法がその悪習の下でしか役を果たす事が出来ない、改めるべき手法(端的な例は土地担保制)なのです。

 

 地価も物価もそして株価も本来あるべき値へと下がりつつある過程に於いて、その株価を一時的に無理に吊り上げる為に、郵貯簡保などを通じて国民の財産を機関投資家達にくれてやって良いのですか!?

そんな愚行は止めて下さい。

若し、株価が下がって銀行の経理的問題が発生すると言うのなら、それらのお金を直接銀行へ注入(公的資金の投入)すべきです。

 

 「持ち合い株」などの愚行は廃止して行くべきです。

企業が株や土地を抱え込む資金があったなら、その金は本来投資家に還元すべきです。

但し、「持ち合い株」には、株の買い占めによる企業乗っ取りを防止する策との大義はあったでしょう。

従って、「持ち合い株」に代わる新たな乗っ取り防止策が必要となるかもしれません。

それには「自社株購入規制の緩和」も考えられましょう。

(但し、この場合には、自社株の会計処理は「時価」ではなく「いわゆる額面」とすべきでしょう。)

 

 更に思うのですが、次のような11月26日付けの朝日新聞の記事もあります。

トヨタ会長、UFJ銀への出資に前向き

奥田碩・日本経団連会長(トヨタ自動車会長)は25日の記者会見で、トヨタによるUFJ銀行への出資について、「UFJからの要請がないのでわからないが、地域、会社、銀行自体のことなどを検討して決めることになる」と述べ、要請が高ればトヨタ白動車は前向きに検討することを示唆した.一方で、「(トヨタは)銀行経営はやらないし、人材もいない」とも述べた。

 本当に、トヨタは銀行経営に踏み切らないのでしょうか?

株主総会が有名無実ならいっそのこと私達は、例えば、ソニーやトヨタの株を買うよりも、ソニー、トヨタの経営する銀行に預金する方向を考えるべきと期待するのです。

ソニーやトヨタの銀行は、自社の企業活動やそれに付随する企業の活動にその資金を運用するのです。

(何しろ、土地担保制が崩壊してしまった今、従来銀行には貸付先企業の実力を評価する能力がないのですから、そして、郵便貯金は国債購入に化けてしまったり、とんでもない株価対策に使われようとしているのですから)

そして、ソニーやトヨタの経営方針に不満を抱いたら、私達はその預金を下ろし別の企業銀行に預金すればよいのです。

 

と申しましても、128日付けの次なる朝日新聞の記事を見ますと、心配になります。

トーメン社長、UFJ銀行から 方針固まる

経営再建中の総合商社トーメンと、主取引銀行のUFJ銀行は、トーメンの次期社長をUFJ銀から迎える方向で調整に入った.現在空席の会長はトヨタ自動車グループの豊田通商から受け入れる方向。UFJ銀とトヨタグループは、経営トップ派遣でトーメンへの全面支援の姿勢を明確にし、再建計画の実行を確実にする計画だ。

このように、豊田が関わりを持つ中で、企業(トーメン)に問題が発生すると、銀行(UFJ銀)から人材を派遣しているのでは、従来の手法と大差はありません。

やはりトヨタといえども銀行経営は出来ないのかもしれません。

 

 しかしながら、少なくとも私達は、バブルが弾けたからと言って悪癖だらけのバブル前に戻ることはないのです。

「災い転じて福となす」であって、この千載一遇の好機に腰を据えて、「本来おこなうべき構造改革」に挑むべきなのです。

大前研一氏の言葉を借りるなら“ガラガラポン!”です。

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